「……ごめん。昨日ほんとは、チューされそうになって……ちょっと、その……しそうな雰囲気にも、なりそうにも……なった、ような気がする」
めちゃくちゃな日本語でぼそぼそと吐いたそれに、乃愛はあまり驚かなかった。
昨日あたしを連れて帰るとみんなの前で言ったわけだし、ある程度予想はできていたのだと思う。
「しなかったの?」
「……途中で止めてくれた」
「え? 宗司くんが?」
たぶんあたしが拒んだものだと思ったはず。乃愛は目を丸くして、「あの宗司くんが止めたの?」と続けた。
それだけ公認のチャラ男なのだと改めて思う。
「……たぶんね、宗司くん、最初からするつもりなんてなかったんじゃないかな、とか思ったりしてて」
「なんでそう思うの?」
「……なんで拒まないの? って言われた」
あたしに触れた時も、距離を縮めていく時も、宗司くんはどこかためらっているように見えた。
彼女に悪いと思ったのかもしれないけれど、だとしたら最初からあんなことをするとも思えない。
宗司くんはよくわからないけれど、わからないばっかりだけど、なんとなくそんな気がする。
「ねえ、乃愛」
「ん?」
「あたしね、……まだ、悠聖が好きだよ」
ぽつり、ぽつり。うつむいたまま淡々と話している間も、乃愛はあたしの頭を撫で続けた。
「……そっか」
もう半年も会っていないのに。連絡すら取っていないのに。
どうしてだろう。どうして忘れられないんだろう。
「悠聖はあたしのために別れてくれたのに。わかってるのに……」
どうして──もう会えないのだと思えば思うほど、悠聖の存在が大きくなっていく気がするんだろう。