「まずったな。違う香水つけとけばよかった」

あたしから手を離した宗司くんは、呆れたように苦く笑った。

どうしたら離れられるの?

どうしたら乗り越えられるの?

どうしたら強くなれるの?

どうしたら──悠聖の最後の愛を、受け入れられるの?

あたし、やっぱり別れたくなかった。悠聖の彼女でいたかった。ずっと一緒にいたかった。

会えなくても、何気ないメッセージを送り合って、なにかあれば電話をして、今までみたいに全部全部聞いてほしかった。

たまに会って、笑い合いたかった。

大きな手に触れられたかった。悠聖の笑顔を見ていたかった。

好きだよ、チィちゃんって──ずっとずっと、聞かせてほしかった。

「チナちゃんはやっぱり未練たらたらなんだね」

「宗司くんはやっぱり嘘つきなんだね」

「え?」

「彼女、いるんでしょ?」

パーカーから宗司くんの手が離れると同時に震えたスマホ。

すぐに鳴り止んだし一瞬だったし、漢字だったからはっきりとはわからないけれど、画面に表示されたのはたぶん女の子の名前だった。

「はは。バレちゃったか」

相変わらず最低だな。

「よく付き合おうとか言ってきたよね」

「その時はいなかったもん」

「どうだか。あたしやっぱり、宗司くんだけは絶対に嫌」

「はは。ひどいなあ」

そう言いながら、やっぱりどうってことなさそうににこにこと笑う。

いつもならムカつくところなのに、体がふっと軽くなったような気がした。

「制服乾いたかな。ちょっと見てくるね」

もしかすると今のあたしは、宗司くんのこのチャラくて適当で軽い感じが、ほんの少ーーーしだけ、楽なのかもしれない。

そう、チャラくて適当で軽い感じなのに、どうして止めてくれたんだろう。

本当はキスをするつもりなんて最初からなかったのかもしれない。

なんとなく、そう思った。