宗司くんはあたしの中に生まれた一瞬の迷いをつくように、小首をかしげて優しく微笑んだ。

「相変わらず、可愛いね」

あまり認めたくないことだけど、宗司くんと悠聖、やっぱりちょっと似てる。

末広二重の大きな目も、笑うと目尻が優しく垂れるところも、筋の通った高い鼻も。

宗司くんはあたしに向かって手を伸ばした。

あまり背が高くないし童顔なのに、視界に入ったその手は、骨ばっていて、大きい。

窓からオレンジ色の夕陽が差し込む。手を髪からあたしの頬に移動させていく。

西日に照らされた宗司くんの顔が、少しずつ、近づいてくる。

わかってる。少し似ているだけ。目の前にいる人は悠聖じゃない。

よけなきゃいけない。ちゃんと拒んで、ふざけないでって怒らなきゃいけない。

頭では理解しているのに、宗司くんの指先があたしの頬に触れた瞬間、体が金縛りになったみたいに動かなくなった。

──いっそのこと、この一瞬だけでも、好きになれたらいいのに。

そんな願いが、脳裏をよぎった。

「──なんで拒まないの?」

残り五センチの距離。

「……なんで、って」

顔を近づけたのは宗司くんなのに。

そんなこと言うなら、最初からキスしようとしないでほしい。

「……だって」

「だって?」

できればなにも訊かれたくなかった。できれば言いたくなかった。

「悠聖と同じ匂いするんだもん──」

こんなこと、言わせないでほしい。

触れられた瞬間、はっきりとあたしの鼻腔をくすぐった、懐かしい香り。

悠聖と、同じ香水の、甘い香り。

悠聖と同じ香りがする指先で、あたしに触れないでほしい。そんなの拒めるわけがない。