宗司くんの手にあった、まだ半分以上コーラが入っている、コップが。
「え? なに?」
「バカお前、急に開けるなよ」
宗司くんとドアから顔を出した男の人があたしを見て青ざめる。
ネクタイ、シャツ、ベストと、思いっきりコーラが染みをつくっていた。
「ああー、ごめん。マジごめんね。ああー、どーしよ……」
「大丈夫だよ。すぐ帰って洗濯するから」
「その状態で帰る気? 絶対じろじろ見られるって。それにすぐ洗濯しなきゃまずいでしょ。俺んち行こ」
「え?」
「染みになっちゃうから。部屋どこ? 荷物とってこよう」
「え? え?」
ちょ、ちょっと待って。
宗司くんの家に行くの? 今から?
訊く間もなく、宗司くんはあたしの腕をつかんで歩き出す。部屋のドアを開けて、あたしの代わりに事情を説明する。
突然入ってきた見知らぬ男の人に驚きながら、ドア側に座っていた男の子が慌ててあたしの鞄を宗司くんに渡した。
たぶん中でも乃愛は一番驚きが大きかったはずだ。ドアを開けた瞬間から目を丸くして呆然と見ていた。
宗司くんは悠聖の中学校時代の部活の後輩で普通に話す仲だったということも、そのおかげであたしも普通に話すようになったことも、一応全部報告してはいる。
だからといって突然宗司くんが現れて、さらにあたしを連れて帰るなんて驚くに決まってる。
あとで説明しなければと思いながら、宗司くんに手を引かれるまま歩いた。
そして、たぶん。乃愛の次に驚いていたのは、椎名だったと思う。
一瞬目が合った椎名は、なにか言いたそうだったように見えた。