「んー。お姉ちゃんと喧嘩した」

「そっかそっか」

あたしには二歳上のお兄ちゃんと四歳上のお姉ちゃんがいて、お姉ちゃんとは仲が悪い。

事情を知っている乃愛に、溜まりに溜まっているうっぷんを容赦なく晴らしていると、

「え? 彼氏いんの?」

突然話に入ってきたのは友哉……だと思ったら違った。いつの間にかあたしたちの後ろに立っていた椎名だ。

手には丸まった紙を持っている。どうやらあたしのすぐ横にあるゴミ箱に用事があるらしい。

ちょっとよけても椎名は用事を済ませることなく、無表情のままそこに立ち尽くしている。どうしてそんなに驚いているのか。

「彼氏? なんで?」

愚痴が聞こえて、なぜか彼氏の話だと勘違いしたようだ。それにしてもどうして椎名が驚いているのかまったくわからない。

彼氏なんかできなさそうに見えるってこと?

そうだとしたらちょっと失礼だと思う。

「いないと思ってたから」

「……なにそれ」

自然と声が低くなったしまった。

普通に「いないよ」って答えればいいだけの話なのに、散々愚痴を吐いたにもかかわらずまだうっぷんを晴らしきれていないあたしは、苛立ちに任せて喧嘩腰になってしまう。

口を開きかけた椎名が言葉を発する前に、昼休み終了を知らせるチャイムの音が教室内に響き、同時に入ってきた担任の「起立」という太い声によって話は強制的に終了した。

なんとなく不機嫌に拍車がかかってしまったあたしは、放課後になるまで乃愛以外とはほとんど話さなかった。