悠聖は、空を見上げるのが好きだったから。
「いや、こちらこそごめんね。チナちゃん、大丈夫?」
「……大丈夫」
手の甲で涙を拭う。
できれば出ていってほしかったのに。あたしの泣き顔を見た彼――宗司くんは、特に気にする素振りもなく隣に座った。
悠聖の甘い香りとは違う、淡いブルーの海を想像させるような、今の季節に合っている爽やかな香水の香りがする。
宗司くんとは高校で再会して以来、たまに遭遇した時は話すようになっていた。
悠聖と仲がいい……いや、本人たちいわく「別に普通」らしいし、再会した時に言っていた通り前みたいに誘われることもないから、いつしか警戒心はなくなっていた。
「宗司くん、ここよく来るの?」
「去年はあんまり来なかったよ。ここ悠聖くんの場所だったから、暗黙の了解で」
暗黙の了解、って。悠聖どんだけ恐れられてたの。
足を伸ばして両手を床につく。悠聖と同じ体勢までしないでほしい。でもこの景色を見れば自然とそうなってしまうのもわかる。
「悠聖と宗司くん以外にも、ここに入る方法知ってる人いるの?」
「いるんじゃない?」
そうか。そうだよね。何百人も生徒がいるのに、ひとりしか知らないわけないか。
悠聖だけの場所じゃなかったことに、どうしてか少しだけほっとした。
「あのさ。訊いてもいい?」
「なに?」
「悠聖くんと別れたの?」
そういうこと、しれっと訊くかな。
二年になってから――悠聖と別れてからも宗司くんとは時々校内で話しているのに、そのことに対しては触れられたことはなかった。
気を使ってくれているのかと思っていたのに、宗司くんは宗司くんだったらしい。