お化け役ではなく勧誘係っていうのが友哉らしい。友哉が勧誘したら人が溢れ返るだろうし、あのバカデカイ声で客引きする姿も容易に想像がつく。たぶん誰よりも適任だ。

「アズ、楽しんでね」

去年のドレスショーで赤は絶対に着られないと言っていた梓が、今赤い浴衣を着ているのは理由がある。友哉の好きな色が赤だからだ。

みんなで浴衣を買いに行った時、迷いながらも赤い浴衣を手に取った梓。

浴衣にも負けないくらい顔を真っ赤にして「これにする」と言った梓の顔を友哉にも見せてあげたかった。

あとで合流する約束をして三人に手を振り、さてどこへ行こうかと虚空を見つめた。

乃愛たちにはああ言ったものの、本当は行きたいところなんてない。だけど賑わう校内を歩いたら、どうしても思い出してしまう。

悩みに悩んだ挙句、あたしが選んだのは屋上だった。

悠聖が何度も来ていた場所。二回だけ一緒に来た場所。せっかく入る方法を教えてもらったのに、別れてから一度も来られなかった場所。

限りある選択肢の中からわざわざそこを選ぶなんて、もはや自殺行為と言ってもいい。

だけど、どうしても、他の場所が浮かばなかった。

「――やっぱり、すごい」

扉を開ければ、無限に続く雲ひとつない青空。フェンスの先に広がる街並み。体を包む、暖かく優しい風。

夏の夜に来た時とも、秋の昼間に来た時ともまた違う。

空気も、香りも、景色も――隣に、悠聖がいないことも。

――誰も来ねえし、天気いい日はめちゃくちゃ気持ちよくて、すげーすっきりした気分になる。

悠聖の嘘つき。すっきりした気分になんてならないじゃん。