椎名はあたしの隣に腰をおろして、ふう、と小さく息をこぼした。
「お前、急に抜けるの癖なの?」
「なんで?」
「中学ん時もここにいたから」
椎名も覚えてたんだ。
あの時は、あたしが部屋から出ていくのを見て追いかけてきたと言ってくれた。
嬉しくて嬉しくて、隣に座っているだけで緊張して、まともに目も合わせられなかった。
今よりずっと幼かったあたしの、淡い初恋。
「やっぱこのメンバーで遊ぶと楽しいな」
「うん」
「みんなにも会えてよかったよ。ありがとな」
椎名、やっぱり変わった。
あの頃は本当に言葉足らずで、自分からこんなに話してくれなかったのに。
「あたしはなにもしてないよ」
「チナが友哉たちに話してくれたんじゃん。俺自分じゃ誘えなかったと思うし」
それは椎名が電車であたしに話しかけてくれたからであって、こうして話せるのも椎名のおかげなのに。
もしあたしが先に椎名を見かけていたら、きっとあんなに自然と話しかけられなかったと思う。
だけどこう言えば椎名はまた返してくる気がしたから、どういたしまして、と笑った。