話の流れで言ってしまったけれど、椎名があたしに話しかけてくれるはずがない。あたしだって椎名を見かけたとしても話しかけられなかったと思う。

気づいてすぐになにか言わなきゃと焦りが湧く。けれど椎名は気にしていないようにふっと微笑んだ。

「よく彼氏といただろ? すげー楽しそうだったから、邪魔しちゃ悪いかなって」

そうだ。悠聖と登下校ができるのはたったの一年しかないから、あたしは悠聖とばかり一緒にいた。

……見られてたんだ。

あたしは嘘が得意じゃない。悠聖のことを思い出しても無理して笑えるほど、まだ全然乗り越えられていない。

あたしの顔が曇ったことに気づいたらしく、今度は椎名が少し焦り始める。

「あー……えっと……」

「……別れちゃったんだ」

笑おうとしても笑えないことなんてわかりきっている。

動揺する椎名から目をそらして、低いトーンで小さくこぼした。

「……そっか。俺も別れたよ」

「え?」

「早百合と」

別れちゃったんだ、とも思ったし、卒業してからも付き合ってたんだ、とも思った。

正反対の言葉が同時に浮かんだせいで混乱し、なにか返さなければと思えば思うほど的外れの言葉ばかり浮かんでくる。

「……そうなんだ。いつ?」

頭の中で大行列を作っている言葉たちの中から、なんとか無難な質問を絞り出した。

「去年の冬。二年記念日だったからすげえ覚えてる」

「え?」

思わず声を上げてしまう。突然大きな声を出したあたしに、椎名は首をかしげた。

「……あ、ううん。なんでもない」

二年記念日に別れたって、あたしと同じだ。単なる偶然なのに大げさに反応してしまった。