ひとりで電車に揺られているこの時間は嫌いじゃない。車窓に流れる景色をぼうっと見ながら音楽を聴いている時は無心になれる。

悠聖と一緒に聴いた曲は、まだ聴けないけれど。

隣に座って、イヤホンを片方ずつ耳にあてて、悠聖が好きな音楽を一緒に聴いた。

あの頃よく聴いていた音楽なんて聴いたら、あたしは間違いなく公衆の面前で泣くことになる。

無心のまま景色を眺めていた時、右肩を軽く突かれた。一瞬肩が当たっただけかと思ったけれど、薄いシャツ越しの感触は指先だとわかる。

ゆっくり振り向くと、そこには懐かしい人が立っていた。

驚いたあたしはとっさに耳からイヤホンを外す。

「……椎名⁉」

「やっぱりチナだ。久しぶり」

椎名に会ったのは中学の卒業式以来だ。まともに話すのは別れて以来。

若干の気まずさが拭えずあわあわしてしまうあたしとは違い、椎名は朗らかに微笑みながら隣に腰かけた。

「なんか雰囲気変わったな。制服のせい?」

それは完全にこっちの台詞だ。

中学の頃よりずっと髪が短くて、目がはっきり見えていて、雰囲気も全然違う。

あの頃のように一見おとなしそうな、正直に言えば暗そうな雰囲気はなくなっていた。

いつも無表情だったのに、今ごく自然に笑っているからだろうか。

椎名が着ている黒の学ランは、あたしの高校のすぐ近くの公立高の制服だ。

話していなかったから当たり前なのだけど、椎名がどの高校に進学したのかなんて全然知らなかった。

「偶然だね。今まで電車で一回も会わなかったよね」

「俺は何回か見かけたよ」

「え? 声かけてくれたらよかったのに」