悠聖と別れてから、あたしは乃愛の前でたくさん泣いた。
毎日泣き続けるあたしを、乃愛はずっと励ましてくれた。
高校を辞めるだのなんだのと支離滅裂なことを言ったあたしに、悠聖の気持ちに応えようと言ってくれた。
――悠聖くんは、チナのそんな姿を見たくて別れたわけじゃないよ。チナに笑っててほしいから別れたんだよ。
乃愛の言う通りだった。悲劇のヒロインぶっていたあたしは、悠聖がくれた言葉や想いまで否定していた。
――チィには一分一秒を全力で笑って過ごしてほしいし、無駄にしてほしくない。
悠聖の、大きな大きな愛。気づかせてくれたのは乃愛だった。
わかってる。どれだけ心配してくれているのか。どれだけ心配をかけているのか。
梓から友哉の話を聞くことはほとんどない。
友哉から梓の話を聞くことはほとんどない。
乃愛だって今は彼氏がいるのに、詳しい話は聞いていない。
みんな、あたしから訊けば答えてくれるだけで、必要以上には話さないようにしてくれている。
気を使わせてしまっているのはわかってる。だけどあたしから訊くのも、それはそれで気を使わせてしまうんじゃないかと思う。
わかってる。あたしが立ち直ればいい。無理にでも笑って、もう大丈夫だよって軽快な口調で言えばいい。それが一番早いに決まってる。
だけどそれは、今のあたしにとってはなによりも難しいことだった。
毎日来るこの高校には――悠聖と過ごしたこの高校には、悠聖の影も思い出も強く残りすぎてる。
新学期の日だって、体育祭の日だって、教室にいる時だって、廊下を歩いている時でさえ。
――チィちゃん。
教室のドアから悠聖が姿を見せるんじゃないか。廊下を歩いていれば、後ろからあたしを呼ぶ声が聞こえるんじゃないか。
ありえないとわかっているのに、毎日毎日そんなことばかり考えてしまう。
世界で一番好きだと言ってくれた笑顔は――まだ、取り戻せそうにない。