「……チィちゃん」

涙を拭わずに顔を向ける。顎先からぽたぽたと涙が零れ落ちていく。

悠聖はとても哀しい目をして、あたしを強く抱きしめた。

悠聖の背中に手をまわして泣きじゃくるあたしの頭を、子供を落ち着かせるように、そっと優しく撫でる。

この大きな優しい手に触れられるのも、今日が最後なんだ。

「俺さ、高校生活すげえ楽しかったんだよ。毎日友達とバカみてーに騒いで、毎日毎日思いっきり笑ってた。ほんと、まさに青春って感じだったよ」

「……うん」

「チィが俺と同じ高校行きたいって言ってくれた時すげえ嬉しかったし、チィにもそういう風に楽しんでほしいって思った」

「……うん」

撫でる手を止めずに、耳もとでふっと小さく笑う。

「チィたちが入ってきて、もっと楽しくなった。あの高校行かなかったらつまんねー高校生活送ってたんじゃねえかなって思うくらい、毎日楽しかった」

「あたしもだよ。毎日毎日、すごい楽しかった。この高校入ってよかった」

「だろ? 高校生活ってすげー大事だと思うよ。だからさ、チィには一分一秒を全力で笑って過ごしてほしいし、無駄にしてほしくない」

「……ん」

「俺は……たぶん仕事始まったら最初は精神的にも金銭的にも余裕ないだろうし、頻繁には帰って来れない。だから……いつ会えるかもわかんねえのに、待ってろなんて言いたくない。俺のことで辛い思いしてほしくねえんだよ」

涙が止まらなかった。

悠聖の想いは温かい。いつだってあたしのことを考えてくれて、大事にしてくれる。

「……だから、チィ」

最後の瞬間まで、こんなにも。

「別れよう」