三月十九日。あたしの誕生日であり、ふたりの二年記念日でもある今日。

あたしたちは一日中、悠聖の部屋にいた。

特別なことなんかしなくていい、いつもと同じように過ごしたいと言ったあたしに、悠聖は優しく笑って頷いてくれた。

ソファーに並んで座って映画を観て、夜が更けてきた頃に一緒にベッドに入る。

引っ越し先は会社の寮だから家具は完備されているらしく、悠聖の部屋からなくなったのは、服とゲームくらいだった。

それだけなのに、部屋の主を失ってしまうこの部屋は、まるでもぬけの殻だった。

「悠聖」

「ん?」

「春斗に全部聞いたよ。すごく悩んでたって」

心の中で春斗に謝りながら、あっさりと告げ口してしまう。

だって、……だって、今話さなきゃ、もう話せないかもしれない。

「ああ、あいつおしゃべりだな」

「悩んでたこと、気づいてあげられなくてごめんね」

「なんで謝るんだよ。……正直すげえ悩んでたけど、でもチィがいたから笑ってられたんだよ」

本当かな。あたしも少しは、ほんの少しくらいは、役に立てたのかな。

もう一度出かけた「ごめんね」を飲み込んで、悠聖にぎゅっと抱きついた。

ふかふかのベッドと、悠聖の香りがする布団と、悠聖の腕枕。

あたしはここが世界で一番好き。

「……悠聖、大人だよね」

「どこが?」

「大人だよ。全部」

「わかんねえ? 俺のガキさ加減」

ガキ? 悠聖が?

そんなはずない。悠聖はいつだって大人だった。

「どこがガキなの?」

小さく笑った悠聖は、大きな手であたしの髪に触れる。

「お前のこと好きだって自覚した時、すげえ悩んだ」

それは初めて聞く悠聖の本音だった。