この恋が運命じゃなくても、きみじゃなきゃダメだった。



「俺、東京行くから」

世界中の音がすべて消えたような錯覚が走った。

部屋に響いていたテレビの音も、一階のリビングからかすかに聞こえていた家族団らんの声も、時計の針の音さえも。

今あたしの耳に響いているのは、自分の鼓動だけ。

東京? なに言ってるの? どういうこと?

いろいろ思うことはあるのに、言葉が出てこない。

「仕事の研修で行くんだ」

「……研修?」

「そ。全国に支社あるけっこうでかい会社で」

「……全国?」

「こっちにも支社はあるんだけど、俺はとりあえず東京になった」

「……東京?」

「就職決まった時はまだどこで研修するかまで決まってなかったんだけど……」

「……いつ決まったの?」

オウム返ししかできなかったあたしは、初めて疑問を口にする。

言いにくそうに、いくつか浮かんでいる言葉の中から今言うべき言葉を選定しているかのように口をもごもごと動かして、気まずそうに目をそらして、頭を掻いた。

「……十二月」

十二月って――もう二ヶ月も前だ。

どくん、と、心臓がまたひとつ大きく波打った。そこからじわじわと電流が流れていくように、全身が小刻みに震え始めた。

「……なんで……言ってくれなかったの? だって、十二月って……」

電流が喉まで到達したせいで、痺れて、声がうまく出ない。

あたし、なにも知らなかった。

初めて旅行した──初めて「愛してる」と言ってくれた日、悠聖はいつもと少し違った。

あの日、もうわかってたの? 離れることを、わかってたの?

──来年は函館旅行がいいな。

そういえばあの時、悠聖は笑うだけで答えてくれなかった。

「せっかく楽しそうに過ごしてんのに、混乱させたくなかったんだよ」