やっぱりその笑顔に弱いあたしは、恥ずかしさも〝好き〟が勝って、そろりと近寄る。
時速一センチくらいのスピードで動くあたしを待ちきれなかったのか、あたしの腕を引いて膝に座らせた。
悠聖の濡れた髪から、鎖骨にぽたりと雫が落ちる。それが妙に色っぽい。
……だから変態か、あたし。
「チィ、見ろよ。めっちゃ綺麗」
「ほんとだ」
いくつも並んでいる氷像が無数のライトに照らされて、カラフルに光っている。
夏の花火もじゅうぶん綺麗だったけれど、銀色の世界で広がるそれは幻想的。まるで違う世界に来たみたいだ。
「大奮発してよかったな」
「うん。ありがとう。……ごめんね」
「なんで謝るんだよ」
「……お金、ほとんど出してくれたし」
「んなことねーよ。半々」
実のところ、あたしは本日の料金を知らない。
調べたのも予約したのも悠聖だし、悠聖がフロントで支払いしている間、あたしは離れた場所で待たされていたから。
温泉旅行をすると決めてから今回は絶対に払うとしつこく言い続けていたあたしは、指定された金額を渡しただけ。
でも絶対おかしい。指定されたのは数千円だし、半々なわけがない。
「部屋食でイルミネーションも見える客室露天風呂付きで、あんな安いわけないでしょ」
「学割とかカップル割とかで格安だったんだよ」
……絶対嘘に決まってるんだけど。
こういうところだけ頑固な悠聖は絶対に言わないだろうから、諦めて「ありがとう」と呟いた。
今日だけじゃない。付き合ってから約二年、デート代はほとんど悠聖が出してくれていた。