屋上の階段を駆け上がり、ドアを開けてすぐに見つけた後ろ姿。
ひとつだけ変わったことがある。夏休みが終わってすぐに、悠聖はもうすぐ就職の面接だからと髪を黒くした。
「おお、ほんとに来た」
あたしに気づいた悠聖は振り返って少し驚いた。
「呼んだの自分でしょ」
「授業さぼるなんて怖いっつってたろ」
「めっちゃ怖かったよ。初めて仮病使ったもん。でもあっさり『いいよ』って言われて拍子抜けした」
「いいな。俺なんかすぐバレるよ」
「あたしは普段から真面目に授業受けてるの」
そっか、と笑った悠聖の髪が、爽やかになった秋風に吹かれる。
「就活中なのにさぼっちゃダメじゃん」
就職活動中で大変な時期なのにさぼりなんて、そんなに余裕なんだろうか。
お父さんの会社はお兄さんが継ぐから、悠聖は普通に就職すると聞いた。
春斗は就職できなかったら上京して芸能人になるなんてふざけてたけど。
「たまにはいーの。就活も大変なんだよ」
「たまにじゃないでしょ」
「まあな」
「目星つけてるんでしょ? 決まりそう?」
「まあまあ」
悠聖はあまり就活について教えてくれない。
どんな仕事をしたいのかとか断片的に聞いても、うまくはぐらかされてしまう。
まあ詳しく聞いたところで正直よくわからないだろうし、悠聖も「ふつーの会社」としか言ってくれなかったから、「そっか」とだけ答えていた。
悠聖が卒業したらきっと今までよりは会えなくなるだろうけど、そのぶん、ふたりの未来に繋がっていると信じてる。
「チィは? なんで来てくれたの?」
あぐらをかいていた悠聖は、足を伸ばして両手を地面につけた。長い手足。
「学校祭で来た時ね、昼間はもっと気持ちいいだろうなーって思ってたの」