「優しくできんのはお前がいい子だからだって言ったろ」
「歌もうまいし」
「それは聴く人によるだろ」
「乃愛たちもうまいって言ってたよ」
「そっか。ありがと」
「かっこいいし」
「それは生まれ持った才能だな」
「そこは謙遜しないんだ」
「そりゃ長年イケメンとか言われ続けたら自覚するだろ。謙遜するほうが嫌味だよ」
周りに言われなくても自覚していいほど、悠聖はかっこいい。実際、女の子たちにはめちゃくちゃ羨ましがられている。
悠聖のことを褒められている時、ちょっとした優越感に浸っていることは悠聖にも内緒。
「勉強もできるし」
「いや、勉強はできねーよ。成績悪いし。テストの順位も下の中くらい」
「そうなの?」
「こんだけ遊び歩いてて成績いいわけねーだろ」
受験の時に勉強を教えてもらったから、頭もいいのだと思っていた。教え方もうまくてわかりやすかったし。
だけどよくよく考えたら、中学生に勉強を教えるくらいできるか。
完璧だと思っていた悠聖の〝絶叫マシンが苦手〟に次ぐふたつ目の弱味に、少し可笑しくなる。
「ふふ」
「なに笑ってんだよ」
「悠聖も人間だったんだなと思って」
「なんだそれ。当たり前だろ」
あたしの中で悠聖は完璧だった。
まるで少女漫画のヒーローが現実世界に飛び出してきたみたいだ。
「勉強ならチィのほうができるだろ。短大行くんだよな」
「行くけど、別に得意ではないよ。だからこれからもっともっと頑張らないと。推薦ほしいし」