まだ後夜祭が終わっていないのに、悠聖は強引にあたしの腕を引いて体育館から出た。
連れて来られたのは、悠聖のお気に入りである屋上。
「すごーい!」
この高校は駅から近く街も栄えているから、ちょっとした夜景スポットだった。
「そんなにすごい?」
「うん! 綺麗だし、学校とは思えない!」
「お前ほんと可愛いな。連れて来てよかった」
授業をさぼる度胸はないから来られなかったけれど、さぼりたくなる気持ちはよくわかった。
きっと昼間にここから青空を見たら、すごく気持ちいいんじゃないかと思う。
「そういえば悠聖、嘘つきだったね」
「なにがだよ」
「歌うまくないって言ってたのに」
「うまかった?」
「うん」
「よかった。ありがと」
悠聖は穏やかに微笑んであたしの頭を撫でた。
「あたしね、最後の曲すごい好きだから、悠聖の声で聴けて嬉しかった」
「ああ、知ってるよ。お前があの曲好きなの」
少し驚いた。好きだって言ったことはないはずだし、あたしは悠聖と付き合うまでバンド名すら知らなかったのに。
「なんで知ってるの? あたし言ったっけ?」
「あの曲だけ鼻歌うたってるから」
「え、ほんと? 恥ずかしい」
隠すつもりがあったわけじゃないのだけど、無意識に口ずさんでいて、それを聞かれていたのかと思うと少し恥ずかしくなる。
「悠聖もあの曲が一番好きなの?」
「お前が好きなんだろうなと思ってたら、俺も一番好きになった」
「本当は違う曲だったの?」
「そうだよ。一番好きなのは最初に歌った曲」
「……あたしのために、あの曲歌ってくれたの?」
「そうだよ。作詞作曲の才能はないからな」