あたしは全然嬉しくない。なんとなく、もう会いたくなかったのに。
無視して逃げるのもおかしな話だから、観念して目を合わせた。
「……宗司くんもこの高校だったんだ」
「理系クラスだけどね」
「そっか」
「今ほっとしたでしょ」
したよ。口から魂が抜けていきそうになるくらいほっとしたよ。
図星なのに、宗司くんに言われると全部見透かされてるみたいでちょっとムカつく。
学年の大半はあたしがいる文系クラスが占めていて、理系クラスと特進クラスは校舎が違うから、校内で顔を合わせることはほとんどないのだ。
「安心してよ。前みたいに誘ったり口説いたりしないから。チナちゃん、今も悠聖くんと付き合ってるんでしょ?」
「えっ? ……なんで知ってるの?」
「悠聖くんと家近いし、一緒にいるとこ見かけたことあるから」
そういえば、前に悠聖も宗司くんと同じ中学出身だと言っていた。学区内なら偶然見かけることがあってもおかしくない。
「チィ? ……と、宗司?」
今度は前方のドアから悠聖が姿を見せた。
あたしと宗司くんを交互に見て不思議そうな顔をする。
「宗司、お前どうしたの?」
「チナちゃんにご挨拶」
「そっか。まだ話途中?」
「もう終わったよ。邪魔してごめんね」
「いや、別に邪魔じゃねえけど。連れて帰っていい?」
「もちろん。チナちゃんまたね」
にっこり微笑んだ宗司くんは、手を振って教室から出ていった。