こういう時、何度乃愛に感謝してきたかわからない。あたしは初対面の相手にそんなにすらすらと返せないから。

昼休みのチャイムと同時に張り切って学食に走っていった友哉の席に、伊藤さんが腰をおろす。

きょろきょろしている大久保さんに、乃愛が「ここ座りなよ」と友哉の後ろの席を指すと、ありがとう、と外見に合った透き通った声で笑顔を見せた。

「なんかね、高瀬さんと……ごめん、名前で呼んでいい? 乃愛ちゃんと千夏ちゃんだよね? うちらも瑞穂とアズでいいし」

「乃愛とチナでいいよ」

チナって可愛いあだ名だね、と瑞穂が笑う。

彼女も人見知りをしないタイプらしく、ごく自然に距離をつめてきてくれた。

「乃愛とチナのこと、可愛い可愛いって騒いでたよ。めっちゃ可愛いふたり組がいるって噂になってるんだって。さっき廊下通った時に聞いちゃった」

「えっ?」「ふーん」

声が重なるも、正反対の反応をしたあたしと乃愛は顔を合わせる。

「え? チナ、なんでびっくりしてんの?」

乃愛は箸を持っている手を止めて、きょとんとしながらあたしを見る。

なんでって、びっくりするに決まってるのに。

乃愛は「可愛い」なんて言われ慣れているどころか聞き飽きるくらい言われてきただろうから、今さらなんとも思わないのかもしれない。

「チナ」

また頭上から声がして顔を上げると、今度は学食でお昼ご飯を食べ終えたらしい友哉が立っていた。瑞穂と梓にも、どうも、と軽く会釈をする。

「なに?」

「呼んでるよ」

友哉がドアのほうを指さす。

「え? 呼んでるって?」

「チナ呼んでくれないかって」

「え?」

呼んでる? あたしを?