この高校は一学年十クラスもあってとにかく人数が多いから、入学式は一年生だけだった。二日目はついに学校で悠聖に会える。
うきうきしていた昼休み、あたしたちの教室の前は大混雑していた。おそらく上級生だと思われる男の人たちが、教室を覗いてわいわいと騒いでいる。
「なにあの人たち。うるさい」
「可愛い子でも探しに来たんじゃない?」
ずっとお弁当に憧れていたけれど、もう給食を食べることはないのだと思うと少しだけ寂しくなる。
売店で買ってきたパンを食べながら、乃愛は「まあ、うるさいよね」と興味がなさそうに言った。
「そうなの?」
それなら乃愛は要注意だ。絶対に乃愛を狙う人で溢れ返る。静かに過ごせるのも時間の問題かもしれない。
「さっき廊下通ったんだけど、高瀬さんと高橋さんのこと指さしてたよ」
頭上で聞き慣れない声がした。
高瀬さんと高橋さん。あまり慣れない呼ばれ方だけど、間違いなくあたしたちのことだ。
顔を上げると、クラスメイトの女の子がふたり、パンを持って立っていた。
「えと……」
「あたし伊藤瑞穂。で、こっちが大久保梓」
伊藤瑞穂と名乗った彼女は、ブラウンのショートカットの髪を耳にかけていて、真ん中で分けられた長い前髪が大人っぽく感じる。ちょっと気が強そうなスポーツ少女という印象だ。
隣の大久保梓ちゃんは、綺麗な黒髪が肌の白さを引き立てていて、見るからにおとなしそうな子だった。
「ごめんね。まだあんまり名前覚えられてなくて。あたしたちのこと指さしてたって?」
「なんかね、……あ、ここ座っていい?」
「いいよ。一緒に食べよ」
「ありがとう」