夏休みが終わると本格的に『受験』がのしかかる。

「チナと乃愛は志望校決めてんの?」

乃愛の部屋でくつろぎながら友哉が言った。

「んー……なんとなく」

「絶対適当に答えただろ」

「うるさいな。そういう友哉は? ……あ、友哉は学力的に勝手に絞られるか」

「うるせーよ」

友哉がのんきに笑う。まああたしも人のことは言えないのだけど。

授業はまあまあ聞いているけれど、テスト前以外は家で勉強したりもしないし、成績はぼちぼち。良くも悪くもなく、だいたい平均。

今まで勉強しなかった子たちも勉強し始めるし、あっという間に抜かされちゃうんだからねって最近よくお母さんに言われる。

だけどなんていうか、危機感がないし実感もわかない。

「俺、実はもう決めてんだよ」

「え? どこ?」

「悠聖くんと春斗くんたちの高校」

春斗たちの高校は、偏差値は中の中って感じ。あたしたちでも普通に勉強すれば受かるくらいのレベルだ。と言っても友哉の成績なら本腰入れて勉強しなきゃ入れないとは思うけれど。

校風はわりと自由だし人気がある。

「あー、あたしもいいなって思ってた。制服可愛いし」

まさにこんな感じで、可愛い制服に憧れて受験する子もけっこう多いと聞いた。

漠然とした未来を想像しながら楽しそうに話してる乃愛と友哉の姿を、あたしはぼうっと見ていた。

みんなちゃんと先のことを考えてるんだろうか。あたしは〝今〟が楽しくて、〝今〟が精一杯で、未来なんてぼやけていて見えない。

なにより、みんなと離れるかもしれない。そんなの考えるのも嫌だ。

まだまだ子供のあたしは、環境が変わるのがなによりも怖かった。