あたしたちは――1度だって、喧嘩なんかしたことがなくて。それは悠聖が譲ってくれていたからで。
そんな悠聖の低い声を聞いたのは初めてだった。
「行ったよ。だからなに? 昔の話だろ? それが今なんか関係あんの?」
悠聖が怒ったところを見るのは初めてだった。少しだけ眉間にしわを寄せて、まっすぐあたしを見る。
いつも優しく垂れている目は、苛立ちを含んでいる。
「お前さ、こないだ自分で言ってたよな? 自分も友哉と仲良くしてるから、人のこと言えねえって」
そう、自分で言ったこと。それなのにあたしは結局、自分のことを棚に上げて悠聖を責めてしまった。
悠聖の言う通り、昔の話なんて関係ないのに。
「昔の女にしたこと、全部お前にもしなきゃなんねえのかよ。今お前と付き合ってて、俺なりに大事にしてるつもりだよ。それじゃダメなの? 昔の女にしたこと全部してやってもいいけど、お前はそれで満足なの?」
目を合わせたままあたしはなにも言えない。
悠聖の言う通りだ。
悠聖はいつだってあたしのことを最優先に考えてくれて、大切にしてくれているのに。
自分の欲求が通らなかっただけで、まったく関係のないことまで言って、感情のままに責めてしまった。
「今日は帰れよ。送ってくから。こんなんじゃ楽しくねーだろ?」
テーブルに置いてあるスマホと財布を順番にジーンズのポケットに入れて、最後に鍵を持つ。〝C〟のキーホルダーが、小さく揺れた。
「……まだ明るいし、ひとりで帰る」
目も合わせずそれだけ言って立ち上がる。試すつもりで言ったわけじゃないのに、なにも言わずに持った物をテーブルに戻して座った悠聖を見てショックを受けた。
涙を堪えながら、悠聖の部屋をあとにした。
初めて悠聖を怒らせてしまった。


