あたしたちはみんなに驚かれるほど仲が良かった。
喧嘩どころか険悪な雰囲気にすらなったことがない……というより、あたしがふてくされても悠聖は「なに怒ってんだよ」って笑うから、喧嘩にならずに済んでいる。
悠聖はいつも穏やかで優しくて、大人だった。
悠聖の家に行くのは週に一回くらいだったけれど、夏休みに入るとどんどん回数が増えていった。
悠聖と会わない日は乃愛や友哉たちと会って、仮にも受験生だというのに、毎日が楽しくて遊んでばかりいた。
「今日はなに観たい?」
「うーん。夏だし、ホラー?」
「いいけど、お前怖がりじゃん」
悠聖の家の近くのレンタルDVD屋さん。最近はゲームばかりじゃなく映画を観ることが多くなった。インドアなあたしの、ゲームと漫画に次ぐ趣味だ。
ゲームは楽しいけどくっつけないと言ったら、じゃあ映画でも観ようかと提案してくれたのがきっかけ。
「悠聖?」
観たい映画を見つけて悠聖から離れた時、後ろから女の人の声がした。
反射的に振り返る。
「おー、ユカ」
笑顔で答えた悠聖は声がしたほうへ歩いていって、棚に隠れて見えなくなった。
店内で流れている流行りの音楽よりも、ふたりの声に耳を集中させる。
「久しぶりだねー。いつ以来だっけ?」
「去年の忘年会以来じゃね?」
「そっか。近くに住んでても会わないもんだよね」
手に持っていたDVDを置いてふたりのほうへ行く。話に入れるわけがないから、棚に隠れてこっそり覗いた。
棚の向こうに見えたのは、悠聖の後ろ姿と、悠聖を少し見上げて笑う、綺麗な女の人。
「あれ? あの子……」
「あ、チィ」
あっさり見つかってしまった。少し緊張しながら悠聖の後ろに立つ。
「……こんにちは」
「こんにちは」と笑顔で返してくれた彼女――ユカさんは、やっぱり綺麗だ。
「今の彼女?」
妙に引っかかった。「今の」って?
悠聖、そんなにたくさん彼女がいたんだろうか。
それに、この人。
「あ、そろそろ行かなきゃ。彼女さん、邪魔してごめんね。悠聖、またね」
手を振って去っていくその人に、悠聖も手を振り返す。
会釈くらいはしようかと思ったのに、あたしはどうしてもできなかった。