「……友哉は」
乃愛が静かに口を開く。
さっきの威嚇するような強い口調ではなく、悲しんでいるような小さな声で。
「友哉は、『まだ別れてない』って言ったんだって。『まだ別れようなんて言われてないし、俺もまだ別れたくないって言ってない』って」
――びっくりしたなんて言葉じゃ軽すぎるけど、びっくりしたとしか言いようがない。
あたしはなにも言えなくて、ただ呆然と立ち尽くす。
「バカじゃないの? なんでちゃんと話してあげないの! 友哉が今どれだけ辛い思いしてると思ってんの⁉」
乃愛の言う通りだ。あたしなにしてるんだろう。
彼氏と別れる前の乃愛と同じ思いを友哉にさせてるんだ。
もし逆の立場だったら、同じようなことを言うと思う。ちゃんと向き合って話しなよって。
「友哉、まだ学校にいるから。たぶん教室」
足がうまく動かない。あたしは今から、あんなに好きだと言ってくれた友哉を傷つけるんだ。
だけど、このままうやむやにしていたら、もっともっと深く傷つけ続けるんだ。
「……みんなありがとう」
靴底が床に張りついているみたいに、微動だにせず立ち尽くしていたあたしは、なんとか足を動かして友哉のいる一年八組の教室へと向かった。