正直、乃愛の気持ちがわからない。「理解できない」という意味ではなくて、ただ「わからない」。

もし友哉が同じことをしたとしたら、はっきり言って理解不能だし怒ると思う。だけどそれはたぶん嫉妬じゃない。単純に、嘘をつかれたことと行いに対する不信感。

大喧嘩になったとしても、それで友哉に別れを告げられたとしても。きっと乃愛みたいにここまで落ち込んだりはしない。

あたしは、友哉が好き?

……きっと違う。人として、友哉の人間性が好きなだけで、たぶん恋じゃない。

あたしは冷たいわけじゃなく、恋愛に向いてないわけでもなく、それ以前に〝恋〟を知ってすらいなかったんだ。

乃愛は結局最後まで泣かなかった。話し終えると、まだ少し震える声で、それでも微笑みながら「チナありがとう」と言った。

自嘲気味に笑う乃愛に、あたしはどうしても笑顔を返してあげられない。

「……乃愛は、なんで彼氏のこと好きになったの? なんで、どういうきっかけで〝好き〟って思ったの?」

少し早口に動く唇。その答えがどうしても聞きたくて、心臓がやけにドキドキした。鼻を少しすすって首をかしげた乃愛からの答えは、

「うーん……わかんない」

「わかんない?」

「うん、わかんないや。話してたらこの人いいなあって思って、いつの間にか好きだなあって思ってた」

恋とはそういうものなんだろうか。いつの間にか〝好き〟という感情を抱くものなんだろうか。

あたしもいつか、乃愛みたいに誰かを好きになりたい。誰かを想って、綺麗な涙を流してみたい。

――その相手は、きっと友哉じゃない。