金曜日だから、乃愛があたしの家に泊まりに来ることになった。

お菓子とジュースを持ってあたしの部屋に向かう。さっそくチョコをひと口頬張ると、ややあって乃愛が重い口を開いた。

「彼氏と別れたんだよね」

「……はっ⁉」

突然というわけではないらしい。

二日間の学校祭が終わった日、クラスメイトと学校祭の打ち上げをすると言われて送り出したはずなのに、なぜか他校の女の子も交えて、彼の家で飲み会をしていたことが発覚した。

それを知った乃愛は激怒して彼を責めると、彼も言い返してきて大喧嘩になった。

それから彼は乃愛を避け始め、昨日仲直りしようと連絡をしたら、「別れたい」と言われたらしい。

「だって嫌だったんだもん。他校の女の子までいるなんておかしくない? しかも彼氏の家で朝までお酒飲んでたんだよ? そんなの耐えられなかったんだもん。あたしが変なのかなあ……」

チークでほんのりピンク色に染まった乃愛の頬が、小刻みに揺れていた。涙を堪えていることは一目瞭然だった。

乃愛は泣かない。出会ってから十年くらい経つけれど、泣いているところは一度も見たことがないかもしれない。いつだって泣いているあたしを慰めてくれていた。

こんな時くらい、泣いていいのに。

そう思うと、なぜかあたしが泣きそうになってしまう。

涙をぐっと堪えて、「そんなことないよ、乃愛は悪くないよ」と陳腐な台詞を力なく吐いた。

乃愛の話を聞きながら、心配する反面、もし自分ならどうなんだろうと思った。