「ちょっと!」

「なに? 寂しい? もうちょっといてやろうか?」

「……うるさい! 出てけバカ!」

「どっちだよ」

笑いながら立ち上がった悠聖は、スマホと財布をポケットに入れた。

大きな手がまた伸びてきて、また攻撃されると思って反射的に構えたら、今度は優しく頭をぽんぽんとなでられた。

「乃愛ちゃんたちどっか出かけんの? もう決めてる?」

「へっ? あ、ううん。別にちゃんと約束してるわけじゃないからまだわかんない。カラオケとかで普通に遊びそう」

「そっか。……チィ」

「なに?」

「どっか行く?」

「え?」

「俺と」

心拍数がじわじわと上昇していく。

「……ふたりで?」

「他にも誰か呼びたい?」

「……ううん。どこ行くの?」

「今思いついたからまだわかんねえけど。いいなら考えとく」

心臓がうるさい。顔が、全身が熱い。

「うん、行きたい」

冗談かと疑うこともなく、素直に受け入れた。悠聖なら本当に連れて行ってくれると思ったから。

「よかった。午後からでいい?」

「うん、わかったよ」

「一応考えとくけど、もし行きたいとこ思いついたら言えよ」

悠聖は、あたしが行きたい場所を言えば、きっとそっちを優先してくれる。

だけど本当に行きたいところなんて浮かばないし、なにより、悠聖があたしのために選んでくれたところへ行きたいと思った。

悠聖と出かけるなんて初めてだ。というか家族以外の男の人と出かけたことなんかもちろんない。

微笑みながら立ち上がった再び悠聖は、頭をぽんぽんと優しくなでられた。

「じゃあな」

また来るわ、と部屋から出ていった。

ついさっきまで「バカ」と連呼していた人と同一人物とは思えないくらい、優しく笑って。