――俺、チナとしたいと思ってるから。
あれから一ヶ月弱。あたしと友哉の間に進展はなかった。
すでに初体験をしていた乃愛に相談したら、「嬉しくて涙が出た」とか「もっともっと好きになった」と言われた。
それを聞いて、憧れなかったわけじゃない。でも、どうしても、決心も覚悟もできなかった。
だってそんなあっさりできるわけがない。あたしたちはまだ中一で、十二歳で(友哉は十三歳だけど)、れっきとした子供なのだから。
たぶん友哉もそれをわかってくれていて、あの日のことがまるで夢だったみたいに軽いキスしかしなくなった。
そして季節はいつの間にか冬になろうとしていた。
カレンダーは残り一枚と少し。
「チナ、今日って暇?」
給食を食べながら、乃愛が控えめに上目遣いをした。
学校祭の前日に張り切って長い髪を染めて、メイクもしっかりとするようになった乃愛は、前にも増して大人っぽい。もう中学生には見えないんじゃないかと思う。
「友哉と遊ぶと思うけど……どうしたの?」
「ちょっと話したいことあって……」
肉じゃがのじゃがいもを小さな口に運びながらうつむく。
最近の乃愛は明らかに元気がなかった。こんな乃愛を見るのは初めてだ。
「じゃあ久しぶりに遊ぼ」
毎日のように放課後迎えに来ていた乃愛の彼氏は、いつからかあまり来なくなっていた。学校祭のあとくらいだから、もう一ヶ月以上ずっと。
気づいてはいたけれど、乃愛がなにも言わないからなにも訊かなかった。でもこうして誘いを受けたなら話は別だ。
乃愛があたしを頼ってくれるなら、当然力になりたいと思う。
「ほんと? ありがとう。友哉に謝っといてね」
冗談混じりに笑う乃愛は、やっぱりどこか無理をしているように見えた。
放課後、友哉に「今日は乃愛と遊ぶから」と言うと、友哉は少しいじけながらも「わかった」と言った。「連絡してな」と笑いながら、あたしの頭を撫でる。
見た目は完全なるヤンキーなのに、笑うと途端に幼くなる友哉の笑顔が好きだった。
友哉は本当に、いつも幸せそうに笑っていた。


