その3
夏美



「はじめにさ、なぜ新入の夏美にだけに、私たちがこれからの話をするのか、それを告げとくわね」

「はい、先輩…」

「今回ははっきり言って、協定合意がどうの、この界隈の治安悪化がどうのと議論が紛糾してるけど、本質は南玉連合の内部対立が表立って一気に噴出した…。私たちはそう見てるのよ」

甲斐先輩は端的に告げてくれたわ

根源は内部対立なのか…

やはり…


...


「甲斐先輩と私だけじゃないなく、多くのメンバーもね、この構図は根深いものがあると捉えてるわ。しかもその対立の根っこは、どんどんと大きくなっていってる。いえ、大げさに言えば進化してるわ。その際たる展開が、あなた達新入メンバーをもメインステージに引っ張り出してしまうケースね」

「…」

私はすぐに聞き返せなかったわ

それって、どういうこと…

「あのね、あなたには、ここで対立の構図を把握してもらうわ。今の南玉は、現総長の水田美由紀とその執行部を支える守旧派と、北見秀美を筆頭とする拡大路線を唱える急進派が、今後の南玉の針路を巡って衝突に至ってるの。その対立軸がベースになってるのよ」

甲斐先輩はさらりと言ってのけたが、私は強い衝撃を受けたわ

それは、このOG重鎮のお二人が内部の深い問題点を、明確に掌握されているという驚きでもあった


...



私が目をぱちくりさせてるもんで、甲斐先輩は思わず苦笑いしながら、さらに続けたわ

「ちょっといきなりで、びっくりさせちゃったかも知れないわね、ふふ…。ここで、夏美にはもっと驚いてもらうわね。近く急進派は、1年を出席させた臨時幹部会ないしは総集会を提案してくると思うのよ。そこでは、1年メンバーに昨年の公認チーム制限条項を持ち出して、それに承諾するかを”踏み絵”させる腹よ」

「ええー、でもなんで、そんなこと今更…」

すると、今度は野上先輩が強い口調で答えてくれた

「表向きは現在21人にも達する新入メンバーが、こうも際どい条文を承諾した当時はいなかったわけだから、例え1年と言えども、いずれこの大所帯を背負っていかなければならないってことで、今ある危機感は自覚させなくてはとね。幹部会の採決権はなくとも、南玉の方向性を決めていく責任感を共有させる云々ということになるでしょうね。しかし実際は、今の1年が守旧・急進のどちらに着くか、その現状を掴むのが目的よ」

「…」

私は絶句するほかなかったわよ…