その2
夏美


そもそも、正式な幹部会決議から半年以上も経って、今まさにここまで紛糾しているのには、それなりの根拠が存在しててね

その主要因は、協定合意書に書かれた当該条項の文言だった

元文には、南玉連合が公認チームを置くことを制限する表現として、”当面の期間に限って”と、”自己抑制努力義務”という内容になっていたのよ

つまり、禁止してはいないってことになる

更に、”当該制限事由の解除を南玉連合が申し出る場合、紅組の承認を得れば、当該条項は無効とすることが出来る”って一文よ…

これは、言葉じりの解釈を巡った論戦の呼び水になったんだよね

まあ、私とて、この表現なら無理もないかなとも思うし…


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さて…、では当初は反対ゼロだったのに、俄かにこの条文への反発が、どうして高まったのかなんだけど…

これは私たちを取り囲む都県境界隈の諸事情の変化が、実に複雑に絡んでくるのよね

まず昨年秋、墨東会から実質トップだった砂垣さんがパージされると、彼の息のかっかった諸グループは手綱を失って、迷走し始めたという経緯があるようよ

その各グループの中には、紅組にも南玉にも入れず、単独でバイクを乗りまわす女性のみの少数チームがいくつも傘下に組込まれていた訳なんだけど、その統率が緩み、巷には文字通り暴走する彼女たちによる衝突、フリーのバイク乗り女子の無節操な増加が徐々に目立ってきた訳よ

そして年が明けると、もう、そこらじゅうでチーム同士のトラブルが頻繁に勃発し、もう看過できないところまで達してきたと…

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この現状は、フィールド内の治安悪化を鎮静させる義務感を持つ南玉にとって、黙認できない域に達してということで、これまで解決策を幹部会で議論していたのよ

その過程で二つの解決策が浮かんだそうなの

ひとつは、南玉がバイク集団としての公認チームを抱えられればそこで暴走する女たちをある程度吸い上げられ、彼女らに南玉の理念を叩き込んで再生させれば、巷のトラブルも減らせ、更に南玉としての戦力アップにもつながるという案だった

もうひとつは、紅組と南玉連合が連携して、力づくで不良暴走女子のカタマリを駆逐するという案…

ところが前者は合意条項のカベがあったので、紅組に当該条項解除許可を打診したが却下され、後者も紅組の同意を得られなかったわ

ここで一気に南玉内部から、紅組への不満・不信感が沸き起こったのよ

もっとも、これははたから見ても無理もないと思うしね

いくら赤塗理念の宗家、姉分格の紅組とはいえ、じゃあどうしろってーの、このまま放置でいいのですかって開き直るよ…、普通は

そこで実際、紅組と紅丸さんは、その辺どう考えてるんだろうかということになるよ…