その1
夏美


あの日…

それは…、中2の2学期が始まって間もない放課後だったわ

部活の前に陸上部の先輩から、”あること”を言いつかってね

「…あなたたち3人には、今度の日曜日…、県民運動場行ってもらいたいんだわ。いいかな?」

「今度の日曜に、県民運動場ですか…?」

「なにかあるんですか、その日…」

「いや、実はね…、ノルマなのよ、この周辺の陸上部でさ。しかも女子限定で…」

「先輩、どう言うことですか、それって…?」

私はいつものように、単刀直入だった


...


「うん、夏美…、紅丸さんだよ。あの人が演説するんだ、その日…」

「ええっ…?あの紅組の…」

「そう…。なんかさ、いよいよ、東京埼玉双方の教育委員会まで動かす気らしいよ、あの人」

「まさか…、例の東京埼玉親善混合とかって女子駅伝大会の提唱が、ここまでくるなんてね…」

そうだったのか…

色々と小耳には挟んでいたけど、”あの計画”、とうとうここまで…


...


「先輩…、私、行きます!行って声を上げてきます。それでいいんですね?」

「ええ、まあ…。でもね…、あの人、女暴走族の元締めだから、あんまりね…。あくまで、この界隈の陸上部女子としては、その主旨のみ最低限理解をって…。そう言うスタンスでってことなんだわ。その辺踏まえてさ…、頼むよ、夏美」

「…正直、学校側は困惑してるらしいのよ。志田先生も、紅丸さんの発起する動機には賛同してるけど、あまりにも扇動的って見られててさ…。県の教育委員会からは圧力がかかってるみたいでね。日教組とか、いろいろあるでしょうから…。だから日曜日当日はさ、たぶん署名求められるんで、極力利害関係のない1、2年中心ってことで…。この周辺の学校は、そんなところで暗黙ってことらしいの」

「そうなんですか…」

私はごく自然に、こんな言葉が口から出てた

でも心の奥底では、既に紅丸さんの提唱する両都県協賛の親善女子駅伝実現を熱望してたわ

”先輩に言われなくとも、当日は行くわ!行って、実現への機運を盛り上げてやる!”

私は、そう静かに闘志を燃やしていたのよ…

厳密には先輩の言いつけには背くことになるだろうけど…