記憶を、なぞる。【完】




というか、詩乃がこっちに来ちゃうの?
ほんとに?ほんとのほんとに?


それを聞いたら、ばかみたいに意識してしまって、さっきまで何度も送っていた視線が突然送れなくなってしまった。

わたしの顔は、まや子と純くんのほうを向いたまま、ガチガチに固まってしまって動かない。というより、動けない。


来るんだって思ったら、嬉しいような、恥ずかしいような…。


どうしたらいいのかわからない、なんとも言えないこそばゆい気持ちになって、鼓動だけがどんどん大きくなっていく。



「純〜わたしたちお邪魔かもしれないから違うところ行こっか」

「そうだね〜そうしよっか」

「えっ…ちょっと…!」

「じゃあ頑張ってね麻綺」

「麻綺ちゃんファイトだよ」



そんなわたしの気持ちを知ってか知らずか、空気を読むようにしてまや子と純くんがサッと立ち上がる。

それで、にたにたと笑いながらわたしに向かって手を振ると、お酒片手にあっという間に他の人の輪へと溶け込んで行ってしまった。


うわあああ、行ってしまった。どうしよう…!?


そう思ってひとり、あたふたしたのも束の間、



「麻綺」

「…、」


来てしまった…彼が。

すぐそばで自分の名前が呼ばれるのが聞こえた。彼が来るのはちゃんと分かっていたはずなのに、わたしの身体はピクっと跳ねてしまう。