記憶を、なぞる。【完】




詩乃の綺麗な顔面を食い入るようにじいっと見つめていれば、不意に彼の視線がこちらを向いて、その瞳が驚いたように少し大きくなる。


「…っ」


わわっ、やばい。目が合っちゃった。
さすがに見すぎたかな…!?



恥ずかしくなって、身体全体がじんわりと火照りはじめる。アルコールのせいで既に熱い顔が更に熱くなって、顔からは火が噴き出てしまいそうだ。


どうしよう。逸らしたいけど、ここで逸らすのもなんかわざとらしいよね…!?

それに、なぜか向こうもこっち見てるし。
ああ、どうしよう…?



この見つめあっているよくわからない時間をどうしたらいいのかわからず、あたふたしていると…——



「あ、このふたり今、目合ってる」

「ほんとだ。見つめ合ってる」


隣のふたりに見ていることがバレてしまった。


「…ちょっとやめてよ…!?」


声に出されるの恥ずかしいんだから!
言葉にされるとすごく、すごく恥ずかしいんだから。


慌ててふたりに「しーっ。静かにして…!?」と合図するけれどふたりはわたしではなくて、詩乃のほうを眺めたまま。それで、


「麻綺〜。光永くんまだ麻綺のほう見てるよ?」

「へっ…!?」

「というか、立ち上がったね詩乃」

「ええ…っ?」

「あ、こっち来るっぽい」

「は…?!」


彼の行動を逐一報告してくるから、ほんとにやめてほしい。勘弁して。