記憶を、なぞる。【完】




「それはわたしたち行っても大丈夫なやつなの?」

『うん!大丈夫なんだって〜!なんかゆる〜い感じの飲みらしくて、おいでよ〜って言われたから!ね!?』


どうやらまや子は行く気満々らしく、必死な説得が電話越しに聞こえてくる。


「ええ…でもさ〜わたしが知ってる人って純くんだけでしょ?そんなの無理だよ。緊張するもん」

『わたしもそうだけどみんな優しいひとたちみたいだから大丈夫だって!お願い〜!一緒に行こう?』

「ん〜…」

『あ〜さ〜き〜』

「もう、仕方ないなあ。ちょっとだけだよ?わたし1軒目ですぐ帰るからね?」

『わー!やった!ありがとう!麻綺!だいすき!』

「はいはい」


いつものサバサバしたまや子とは違う、調子のいい甘えた声が聞こえてきて思わず笑ってしまった。

人見知りしちゃうタイプだからほんとうは行きたくないのが本音だけど、いつもまや子にはお世話になってるし、暇だったので仕方なくオッケーした。


『じゃあ、細かいことはあとでLINEするから〜!』

「はあい、じゃあまた後でね」


電話が切れてすぐに言われた通り、お店の場所と開始の時間が書かれたメッセージが送られてきた。


それと、お世辞でも可愛いとは言えないうさぎが踊っているスタンプ。

これ、まや子の今の気分なんだろうな。

わたしとは逆のテンションであろう彼女に苦笑いをこぼした。