記憶を、なぞる。【完】




『どんだけ噛むんだよ』

「だって、急に、びっくりしたから」

『ごめんごめん。まあ、こっちだって急に連絡きてびっくりしたけどな』

「…それはごめん」

『いや、別にいいけど』


電話越しにクスクスと笑っているのが聞こえるから、意識しすぎてちょっとだけ耳が擽ったいような感覚になる。詩乃と電話してるなんて変なかんじだ。



「…どうしたの?」

『あー、…麻綺いま何してんの?』

「いま?まや子と外で一緒に呑んでる、けど。なんで…?」


なにか言いたげな様子が伝わってきて小さく問いかけると、なぜか現況を聞かれた。首を傾げながら、こちらを食い入るようにみつめるまや子と目線を合わせていると、


『…それってさ、いつ頃終わんの?』

「まだ…—、あ、もう終わるよ。うん、もうすぐ終わる!」


気まずそうな、控えめな詩乃の声がわたしの耳に届いて、まだかなって答えようとしたのに、まや子がすぐそばで「もう終わるって言え!」と何度も合図してきたから、慌てて言い直す。



『じゃあさ、今から迎えに行ってもい?』

「い、今からっ?」

『……会いたいんだけど、やだ?』

「…や、じゃない」

『じゃあ、迎えにいく。あとで場所連絡して』

「う、うん。わかった」