記憶を、なぞる。【完】




「そうだよ。詩乃が弥紘くんのこと好きって聞いてくるから、ああこの人わたしのこと眼中にないんだなって思ったの。それでわたし嘘ついたんだよ。少しでも一緒にいたかったから。…あ、この道こっちね」


そう言って、左右に枝分かれしている道の右側を指さした。

行きは、遠いなって思っていたのに帰りはびっくりするくらいあっという間だ。もうすぐ、着いてしまう。嫌だなあ。

ちょっと遠回りの道で帰ろうかって思ったけれど、それは詩乃に迷惑がかかるからやめておく。



「完全にお前は弥紘のこと好きだって思ってたんだよ」

「なんで気がつかないの?わたし結構詩乃のこと見てたのに」

「普通に弥紘のこと見てるって思ってた。だいたい電車乗ってたら、知らないやつの視線アイツに集まるから」

「そうなの?」

「そーなの、あいつたまに声かけられてるしな」

「そうなんだ、詩乃はそういうのなかったの?」

「俺は全くなかったな」




それは、弥紘くんが優しそうな雰囲気を纏っているから話しかけやすいだけだと思うけど。

詩乃だって、自覚がないだけで周りからの視線はたくさん浴びていたんだと思う。ただ、見た目がね、ちょっと怖そうだから女の子も近寄らないんだよ。