記憶を、なぞる。【完】





「まあでも、向こうもほどほどよね〜。ていうかね、あと30分くらいしか時間ないよ?ほんとに話さなくていいの?」

「いいの?麻綺ちゃん」


向こうもほどほど、と言いながら彼を見て、にやにやする2人がちょっとよくわからなかったけれど、


「やだ、話したいよ」

「じゃあ、話しかけに行きなさいよ」

「う〜んんんん〜」

「ほら、はやく!立て!酔っ払い」

「だって〜」


わたしだって、話したいって思っている。
それは今日会ったあの時からずっと思っていることだ。

だけど、10人ちょっと集まっているこの部屋の中で少し離れた場所にいる彼に声をかけるのは、なかなかの勇気がいるのだ。


グズグズとしながらそれをふたりに言えば、


「そんなもんみんな酔ってて気にしないわよ!」

「そうだよ!気にしてるのは麻綺ちゃんだけだよ!」


とごもっともなことを言われてしまう。

そうなんだけどね、勇気が出ないんだよ。緊張するんだよ。

だから、お酒に力を借りようとずーっと飲んでるんだけど、やっぱり勇気は出ないのだ。


はあ、なんでこうなっちゃうかなあ〜とお酒をまた口に含みながら、項垂れてしまう。


今日は、ここにいる予定じゃなかったのになあ。本当だったら今ごろ、家にいるはずなのに。