「あっ、ごめん」
「…なにお前、むかつく」
「ごめんってば。ゆるして」
「…」
再び謝ったわたしに詩乃は何も言わず、冷たい視線だけを送ってくる。それでドカッと音を立てて座り直し、スマホを構い始めてしまった。
これは…拗ねたな。
詩乃って案外子どもっぽいとこあるよね。
心のなかで静かにため息をはきながらスマホの画面をそっと見下ろす。
見せてあげたい気持ちは山々だけれど、
《麻綺ちゃんって詩乃のこと好きなのに、なんで俺の事好きなフリしてるの?》
わたしの短いメッセージをまるごと無視して返ってきたこの言葉を見せられるわけがなかった。
「そういえばさ…」
「なに」
「詩乃って、好きな子とかいるの?」
思い返せば、わたしはこの1ヶ月間自分の気持ちばかりで、彼のそういうのを聞いたことがなかった。彼女はいないことは聞いていたけれど、好きな子の有無はまだ聞けていなかった。
見たところそんな雰囲気は感じられなかったから安心していたけれど、実際どうなんだろう。
「は、なに急に」
「いや、ちょっと気になったから…。で、どっちなの?」
なんとなく聞いた質問だったのに、なぜか身体中がヒヤッとした。それで、すごくイヤな予感がした。
聞いた瞬間詩乃が見せたどことなく落ち着きのない感じに、”お願い、違うって言って”とわたしのこころが懇願し始めている。


