記憶を、なぞる。【完】




「はあ〜。でも、連絡先聞いたんだから挨拶くらいしとかなきゃだよね…」


どうせ詩乃が戻ってきたら、またしつこく言われるだろうし。1言目に「まだ送ってなかったのかよ」と言われるのは目に見えている。


だから、《麻綺です。連絡先教えてもらってありがとう。よろしくね》とだけ送れば、


「え、わ、もう既読ついた」


1分も経たないうちに既読のマークがついたので、反射的にスマホの画面を真っ暗にする。そうすれば、程なくして画面が通知を知らせた。


…のだが、弥紘くんからきたメッセージの内容に一瞬、息を呑んだ。


「…えええ…っ!?」

「連絡したのかよ」

「うわっ!?詩乃だ!」

「なんなんお前」



数秒遅れて驚きの声をあげていると、いつの間にかすぐそばに立っていた詩乃に冷ややかな目を向けられる。あ、また炭酸入れてきてる。どんだけ好きなんだよ。


「お、おかえり。いや、なんでもないから!」

「なんでもなくねえだろ。なんて来たんだよ。見せろ」

「え、むりむり…っ!内緒だから、」



再び目の前に腰を下ろした詩乃に見られないようにと咄嗟にスマホを詩乃から遠ざける。

そうすれば、詩乃は身を乗り出してスマホに手を伸ばそうとするからバシッとその手を思い切り振り払ってしまった。