記憶を、なぞる。【完】




あの電車のなかで協力を求めてから早1ヶ月が経った。

あのとき初めて自己紹介をして、その場で連絡先を交換してバイバイしたのが既に懐かしい。



今わたしの目の前にいる男の名前は、光永詩乃。高校は、電車でわたしが降りる駅より1つ先の駅に行った近くにある工業高校に通っている同い年だ。


今日の朝、詩乃は弥紘くんと一緒に駅までやってきた。どうやら弥紘くんはいつも1本早い電車に乗っているみたいで、たまにわたしたちと同じ電車に乗ることがあるらしい。


詩乃と仲良くなってからは、詩乃が気を利かせてくれたおかげ(?)で3人で会話をしていたんだけど、この1ヶ月間わたしが弥紘くんに連絡先を聞くことはなかった。


だけど、のろのろしているわたしに痺れを切らしたのか、今朝弥紘くんの少し後ろに立って、弥紘くんとわたしの会話を静かに傍観している詩乃からの圧がすごかったの。

詩乃の目が恐ろしいほど、連絡先を聞けって話しかけてくるのだ。


そこでなんとか弥紘くんとは連絡先を交換したわけだけれど、わたしが1日何も送らなかったので、詩乃からお呼び出しを食らってしまったのである。