記憶を、なぞる。【完】




誰?それ?


何を言われるんだろう。とドキドキしながら待っていれば、彼の口から出てきた名前はわたしの全く知らない人の名前で。

思わず、ポカンとしてしまう。


「俺がたまに一緒にいる茶髪のやつなんだけど、わかる?」

「…茶髪?」


少し考えてパッと頭に思い浮かんだのは、彼が時々一緒に電車に乗っている男の人のことだ。


少し近寄り難い雰囲気のある彼とは違って、優しそうな雰囲気を纏っている人。そして、彼同様整った綺麗な顔をしている。あの人は、まるで…——


「あ、王子さまですか?」

「あいつが王子さま、ねえ」


王子さまっていう言葉がぴったりな容姿のひとだ。それなのに、目の前の彼はわたしの言葉に苦笑してる。なんだか、納得いってないご様子。


「ま、いいや。あんたその王子さまのこと好きなんでしょ」

「…へ?」

「違う?あいつといるとき、あんたとよく目が合うからそうかなって思ってたんだけど」



どうしてそうなるんだろう。
もしかして、この人鈍感なの…!?

わたしが好きなのはあなたのほうだし、わたしあなたが1人でいるときもよく見てるんですけど?


心のなかでそう思っていても、そんな大胆なことが本人に言えるはずもなく。