記憶を、なぞる。【完】




「ねえ、詩乃は行かなくていいの?」


まや子と純くんの背中を見送ってから、隣にいる彼をきょとんと見上げると、ゆっくりと落ちてきた瞳がわたしを捉えて「行かない」とはっきり答えた。


そっか、行かないのか。なにか用事でもあるのかな。

それか、誰か迎えに来たりするのかな。…彼女、とか。

今日あえて触れてこなかったところを勝手に想像して、勝手にもやもやしてしまう。わたしって本当に面倒臭い。


でも、そんなことはわたしには関係ないのだ。
だって、わたしたち今日以降会うことなんてないんだもん。


そう自分に言い聞かせていても、久しぶりに会ったらやっぱりいいなって思っちゃったから寂しい気持ちにもなる。だけど、連絡先を聞く勇気もなくて、臆病な自分が心底嫌になる。


「…そうなんだ。じゃあ、わたしこっちだから、帰るね?」


心残りがあるまま、帰る方向を指さして首を傾げると、気だるげな顔が「はあ?」と眉を顰めながら低い声を出した。


「え?なに…っ?」


またもや向けられる容赦ない視線に動揺する。
帰るって言ったら、不機嫌そうな顔されるってどういうことなの?え、わたし帰ったらダメなの?


「送るに決まってんだろ」

「え、送ってくれるの?」


と、思っていたら、平然とした様子で放たれた言葉に心臓がどくっと大きな音を鳴らした。