あとは入るだけなのに、憂鬱な気持ちがどんどん増してきてドアの前で立ち止まっていると、
「うわ…っ、すいません」
「あっ、こちらこそすいません…!」
角を曲がってこちらにやってきた男の人とぶつかってしまった。その刹那、心地のよい低い声がわたしの鼓膜を揺らした。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。ほんとすいません…っ」
もしかしてこの人、今日のメンバーの人なのかな。それならこの人と一緒に中入っちゃおうかな!?
と、わたしを心配する声に返事をして顔を持ち上げた瞬間…————
「は?」
「え…?」
わたしたちはお互い、顔を見合わせて停止した。
このときのわたしたちは、かなりのアホ面をしていたと思うし、わたしは不細工な顔を晒してしまった自信がある。
わたしの目の前に立っていたのは、
すらっとした高身長に、はっきりとした整った顔立ち、ひと目見ればわかるほどお洒落に気を遣っている服装をした大人な男性だった。
それだけじゃなくて彼は…——
「麻綺は、なんでここにいんの?」
「…っ」
高校生のとき、わたしがだいすきだった人だった。
数年ぶりに再会をして、数年ぶりに名前を呼ばれる。それで、胸がぎゅうっと締めつけられる。
久しぶりの再会に、心臓が大きな音を立てて、これから何かが始まるのかもしれない。
———なんてどきどきわくわく心を踊らせていたのは、もう、1時間半も前の話だ。


