記憶を、なぞる。【完】




「うわあー!麻綺ちゃんずるい!おれも…って、あれ?…あ、詩乃だ、やっほー」


“詩乃”という探していた人の名前が聞こえて、反射的に顔を動かすと、純くんの首根っこを掴んだ詩乃が目の前にいた。うわあ、いつの間に。


「お前なあ、酔いすぎなんだよ」

「え〜そんなことないけど」

「騒ぎすぎなんだよな、阿呆」


呑気に手を挙げて挨拶をする純くんを見下ろすその顔は、呆れ果てていて、疲れているようにも見える。


どうやらまや子がわたしに抱きついているのを見て、こちらに飛んでこようとした純くんを詩乃が止めたみたいだ。


助かった。たぶん純くんがこっちに激突していたら、今ごろ3人仲良く地面に転がっていただろうから。



「もうお前帰れよ」

「えー俺たち次も行くから!ね〜まや子」

「ねえ〜」


詩乃に離してもらった純くんは、すぐにまや子の隣に並んで楽しそうに破顔する。まや子も釣られてにこにこしているからもう、付き合っちゃえよ。ってほんとに思う。


「じゃあ、はやく向えば?あいつらについて行かねえと、多分迷子になるぞお前」

「それは困るー!まや子行こう〜」

「うん〜麻綺気をつけて帰ってねえ〜」

「麻綺ちゃん、気をつけて〜」

「ふたりともほどほどにね」



2次会のお店は、ここから歩いて数分の距離にあるみたいで、ふたりはまた肩を組みながらこちらに手を振ると、詩乃の同期メンバーに続いて仲良く去っていった。