記憶を、なぞる。【完】







あれから詩乃と昔話…ってほどでもないけれど、懐かしい話を少しだけしていたら、あっという間に時間が経過してお店を出なければいけなくなってしまった。


わたしはここからお家が少し離れているから、これで帰る予定だけれどみんなは、これから2次会をするみたいで2軒目に行く準備をしている。

たぶん、詩乃も行くんだと思う。




もう少し、ふたりで話したかったなあ。まだ一緒にいたかったな。


ちらり、と胸の奥で顔を覗かせた欲をどこかへとやるように、寒い寒いお店の外で悴んだ手に白い息を吐きだした。


あれ…?
そういえば、詩乃どこ行ったんだろう?
さっきまで近くにいたんだけどなあ。


「わっ、びっくりした〜!もう、驚かせないでよ!」


突然消えてしまった彼の姿をきょろきょろと探していると、わたしの視界にパッと勢いよく人が映りこんできた。それは、


「ふふ、ごめんごめん〜」

「ごめんね〜あさちゃん〜」


まや子と純くんの幼なじみコンビである。ふたりは仲良く肩を組んでへらへらとたのしそうに笑っている。


…もうさ、ふたりとも付き合っちゃいなよ。そんなにくっついちゃってさあ。まや子もそろそろ純くんの気持ちに応えてあげたらいいのに。