記憶を、なぞる。【完】




「でもさ、あれだけ本人にも、周りにも自分の好意を堂々と晒せるのってちょっと羨ましいよな」

「…確かに。普通はあんなふうに態度になんて出せないもんね」

「だよなあ」



ぼーっと詩乃が見つめる先には、楽しそうにはしゃいでいるまや子と純くんの姿があって、詩乃はそんなふたりを見ながら、時折目もとを優しく緩めていた。




あのころのわたしも、純くんみたいにもっと素直に好意を晒せていたらなにかが変わっていたのかなあ。とか、もしかしたらこの会っていなかった数年間も一緒にいられたのかもしれないのに。とか、


詩乃の柔らかい表情を見ながら、たくさんのタラレバが頭に思い浮かんだ。











「え、麻綺ちゃんもう帰っちゃうの?」

「そうなの?早くね?」

「うん!本当はまだいたいけど…そろそろ帰るね。今日はお邪魔させてもらってありがとうございました。すごく楽しかったです」

「まじかあ、寂しいな?でも、こちらこそ来てくれてありがとうね」

「また一緒に呑もうな。今度は俺ともゆっくり話そう?」

「うん、話そうね」



アルコールで赤くなっている顔をにんまりと優しく緩ませて話しかけてくれるのは、純くんや詩乃の同期の男の子たち。

お名前は…うろ覚えだけど、ふたりとも優しくてすごく話しやすかった。