記憶を、なぞる。【完】




「つうか、もうすぐラストオーダーの時間だと思うからなんか追加で頼んどこうぜ。で、お前はもう酒飲むのはやめとけよ」


不貞腐れているわたしを尻目に、詩乃はタッチパネルを持ち上げながらそう言った。

その言葉にハッとしてスマホを見れば、残りの時間はさらに少なくなっていた。


そっか。もうすぐこの時間も終わっちゃうのか。まや子たちの言う通り、もっと早くから話しかけに行けばよかったな。勇気がどうこう言っている場合じゃなかった。


しょんぼりと反省しながら、「…詩乃は飲むの?」と再び詩乃のほうを向き直す。


「飲むけど」

「ええ〜。じゃあ、わたしも飲む」

「はあ?結構酔ってんだろいま」

「そうかなあ〜?そんな気しないけどなあ」

「やめとけよ」

「…はあい」


じろり、と睨まれたので素直に従うことにした。詩乃から見たわたしは、かなり酔っているように見えるらしい。わたし的には意識はっきりしているし、全然そんなことないんだけど。


「なにがいい?お茶?メロンソーダ?水?」

「…烏龍茶がいい。冷たいの」

「りょーかい、冷たいのな」



ほんと綺麗な顔してるなあ。まつ毛なっっが。


タッチパネルをスムーズに操作する、詩乃の伏せられた横顔に感動しながら返事をする。


さりげなく、メロンを入れてこないでほしい。


飲み物ふたつをカートに入れている彼にジトっとした視線を横から送っていると、不意に詩乃の黒目がわたしを捉えた。