記憶を、なぞる。【完】




声のするほうをゆっくりと振り返ると、わたしを見下ろす黒曜石のような瞳とばっちり視線が絡む。


「ここ、座ってい?」

「あ、うん。どうぞ」


いちいち反応してしまう自分の心臓に呆れながらも返事を返すと、「どーも」と言いながらわたしのすぐ隣に詩乃が腰を下ろすから、そわそわしてしまう。


どうしよう、どうしよう。

隣に座ってる。わたし今、詩乃の隣に座ってる…!ばったり再会しちゃったときの何倍も緊張するんですけど…?


わたしの心臓、口からポロッと出てきちゃいそうだ。身体に含んだアルコールも全部出てきてしまいそう。…ってそんなこと今はどうでもいいんだよ。

そんなことよりわたし、何話す?どうする?時間ないんだよ?

話したいことたくさんあるはずでしょ?
ここ数年会ってなかったんだから。そりゃあ、積りに積もってるよね。



「それ何飲んでんの?」

「…へ?」


何から話そうか。と回らない頭で話す内容を必死に考えていたら、不意に隣から顔を覗き込まれた。

そのせいで、アホ丸出しの気の抜けた声を零してしまう。恥ずかしい。



「酒、何飲んでんの?」

「ああ、えっと、メロンフィズ?かな?」


思いがけずぶつかった視線に戸惑うけれど、詩乃はわたしと、わたしの持っているグラスを交互に眺めながら再び質問してくるので、慌てて答えれば、なぜかクスッと笑われた。