この日記は僕がこの手で書く
最後の日記だ

小学校の時
父さんは莫大な借金を作った
あれから少しずつ
家の中がおかしくなった

母さんが変わり
父さんも変わり
沙知も僕も変わっていった

あの頃
母さんは夜になると
いつも泣いていたね

台所から聞こえてくる
母さんの泣き声は
たまらなく悲しかった

どんどん変わっていくこの家を
何とかしなきゃって

僕は焦った

でもどうすることも
できなかった

僕なりに精いっぱい
しゃべったけど
いつも無視された

誰も僕の意見なんて
聞いてくれなかった
孤独だった

あれから母さんは
働きどおしだった

大変だってことくらい
わかっていたよ
だけど僕だって苦しかった

夜中に聞こえてくる
父さんと母さんのケンカを
僕と沙知が
どんな気持ちで聞いていたか

僕はいつも眠れず
ふとんの中で震えていた

志望校に落ちた時

そう、あの時だって

さんざん家のまわりを歩いて

どうやって家に入ればいいのか
ずっと考えていた

夜、やっとの思いで
玄関を開けて
僕は笑うしかなかった

だけど母さんは
僕のことを
恐ろしい顔で見た

そして金の話ばかりをした

僕はね、必死で笑ったんだ
ふざけたわけじゃない

なんで僕の気持ち
わかってくれなかったのか
悔しかった

あの頃から
みんなの視線が冷たくなった

先生も近所の人達も
みんな同じような目で
僕のことを見た

みんなの視線の奥にある
冷たい心が
僕の中に突き刺さるように
苦しかった